Running by bicycle in Ramadan
走り始めてラマダンの厳しさと優しさを知る

2012.8.9 / Morocco(Essaouira~Sidi Al Mokhtar) 本日 自転車79km走行 : Total 39326km走行
天気:晴
朝飯→パン 昼飯→スナック 夕飯→スープ / 宿→肉屋の店先で野宿

(English)
 I left from Essouira. I started to run on Morocco road by bicycle again.



 作業が終了したので、ようやくエッサウィラを出発。結局20泊もしちゃってた。朝、出発時に宿料金を20泊分、まとめ払い。

 さて、次の目的地は、マラケシュ。これから内陸に入っていくので、海からの冷たい風はきっとなくなる。過ごしやすくて超快適なこの気候ともオサラバ。これからは、暑い。灼熱の中走ることが予想される。一応、覚悟をして走り始めたのですが・・・

 やっぱり、暑かった。耐えられないくらい暑かった。

 まず、エッサウィラの町を出たところで、いきなりの上り坂。この辺の地形、リアス式の入り組んだ海岸沿いなので、土地がウネウネと隆起しまくり。そんな峠を上っていたら、途中くらいから、冷たい風は途絶えた。ついに灼熱の始まり。この灼熱が、20日間、エッサウィラでは、町の散歩くらいしかしてなかったオイラのカラダを鞭打つ。ということで、この峠を越えたところで、暑さと疲労のため、もう、バテバテ。アガディールを出発する時のように、テンションあがって無茶走り、なんてことはしなかったから、貧血を起こすようなことはなかったけど、とにかく、一山越えるだけで疲れ果ててしまった。

 まぁ、なんとか一つ目の峠を上りきれた。で、ここで、一休みしたかったのだが、木陰になるような高い木がなく、陰で休めるような場所がない。どこかいい場所ないもんかと、キョロキョロしていたら、ちょっと先にお土産屋さんを発見。日よけがあって、椅子まで置いてある。そこで、店のおばちゃんに、「ちょっとだけ休ませてください」とお願いして、椅子に座らせてもらうことに。で、喉も乾いていたので、ジュースかお茶をとお願いしたのだが、あいにく今はラマダン。そういうものは、用意してくれていない。と、奥に入ったおばちゃんが、手招きして中へ呼んでくれた。なんと、「ゴメンね、飲み物はあげられなくて・・・代わりに、この水道水を浴びてスッキリするといいわ」と、水シャワーを勧めてくれるじゃないですか。ああ、これがモロッコの優しさ。頭から水を浴びさせてもらう。水が冷たくて、めっちゃ心地いい。気持ちがスッキリして、再び走る気充電が出来たオイラ、おばちゃんに、感謝を言って、走り始める。

 そうそう、今、ラマダンの時期なのだ。観光地のエッサウィラなんかにいると、非イスラムな観光客向けに、開いている店が多いので、何も困ることはなかったのだが、そういう場所から一歩外へでて、小さな町程度の場所に突入すると、ホント、このラマダンの時期の昼間は、町として機能していないことを思い知らされる。ヒジュラ暦の第9月であるラマダンの月には、日の出から日没までのあいだ、イスラム教徒の義務の一つ「断食(サウム)」として、飲食を絶つことが行われる(Wikiより抜粋)。ということで、イスラム教徒しかいない場所では、日中は、だれも食べないし、飲まないため、当然のごとくに、昼間商店やレストラン・カフェは、軒並み閉まっているのだ。当然、途中で店に入って昼飯を食べるなんてことは出来ない。ジュースや水すら途中入手は難しい状況になる。

 まぁ、一応、こうなることは予想してはいたので、大量の水を積んできたし、移動食も用意してきた。移動食・・・といっても、ビスケットとかだけど。ちなみに、モロッコ、パンがあんまりおいしくないんですよ。いやおいしくないっていうか、モサモサしてて、食べ飽きる味っていうか。なので、移動食と言えばパン派だったオイラも、モロッコでは移動食にパンは用意しなくなった。ということで、お昼、陰のある建物を見つけ、そこで休みながら、ビスケットをポリポリ。

 ちなみに、陰になっているような場所はそうそうないので、オイラが休むような場所には、必ず先客の地元民がいまして。みなさん、ダラッと休んでいるのですよ。このラマダンの時期、昼間、イスラムの人々は、ひたすらダラッとしているんです。日陰に座り込んで、ひたすら喉が渇かないように、ひたすらお腹が空かないように、じっとしている。いちおう、車やバイクで移動している人とか、そんな人たちのために働いているガソリンスタンドのおじちゃんとか、動いている人たちもいるんだけど・・・真昼間、炎天下の中、必死こいて自転車をこいでいるような人は皆無。

 で、そんなダラッとしている地元民の人たちは、断食断飲中。ちなみに、ラマダンでは異教徒に断食を強要するなんてことはないから、オイラは別に飲食しても問題ない。ないのだが、いくらオイラが非イスラムだからって、その人たちの隣で、水をがぶ飲みしたり、ビスケットを食べるわけにはいかない。気を使っちゃいますよ、なんだか。なので、その人たちの目の届かないところに移動して、水をこっそり飲んだり、ビスケットをかじったり。

 そんな感じで、ひたすら走り続けるラマダン時期のモロッコ道。400mくらい高度が上がったら、ようやく起伏が落ち着いてきて、道が平坦になってきた。これからは、ひたすら直線道となるようだ。だいぶ、楽になってきたものの・・・キビシイ暑さは相変わらず。予想していた以上に、水分補給を繰り返さなきゃいけないため、手持ちの水が危うくなってきた。

 やばいなぁ・・・途中で、水を入手できないというのに・・・

 なんて思っていた時、オイラのチャリを抜いていった一台の車が、目の前で止まった。で、車から降りてきたおじちゃんが、「マラケシュまで自転車かい?グレイト!」と話しかけてきた。そして、「この暑さの中、大変だろう・・・水は、いるかい?」と水をプレゼントしてくれるというじゃないですか!おお、なんてナイスなタイミングでの、お助け。これが、モロッコの優しさです。いろいろキビシイモロッコ・・・キビシイからこそ、人は優しくなれるのだ。そんなおじちゃんからもらった水が、なんと冷え冷え。この炎天下にさらし続けてすっかり熱湯になってしまった手持ちの水では、全然喉の渇きが癒せなくなっていたオイラの喉が、すぐに飲みたいと欲する・・・

 「ラマダンなのは知ってるんですケド・・・今、飲んじゃっていいですか?ちなみに、僕は、ノン・イスラムですので・・・」と、一応、おじちゃんに断って、その場で、ゴクゴク。くぅ~、ウマイ。

 ホント、助かりました、と何度もおじちゃんにお礼を言って、走り去るおじちゃんの車を見送る。そして、走り始めるオイラ。いやぁ、冷たい水でカラダの元気が復活して、この後、結構快適なペースで走り続ける。が、前半のノロノロが響き、今日は全然距離が稼げていない。

 そして、パワー復活したのもつかの間。しばらく走ったら、またバテバテ状態に。

 今日、本当は100kmくらい走った所にある大きめの町で、泊まる予定だったのだが・・・70kmくらいのところで、日が暮れてきた。疲れ果てたし、ちょうど、小さな町があったので、今日は、もうここで、走り終えることに。

 で、宿があるかどうか、と町の人に聞くも、この町には宿なんてない、とのこと。「う~む、どうしよう」と困っていたら、そのおじちゃんが「あそこのレストランに行くといい。寝るところなら、なんとかしてくれると思うよ」と、一つのレストランを指差した。日が暮れ、そろそろ、飲食が出来る時間になるため、イスラムの人々が集まり始めていたレストラン、そこへ行って「今日、この辺で寝たいんですけど」と、レストランの人にお願いしたところ、通り沿いにあるレストラン脇の肉屋の前に連れて行ってくれた。

 「ここに寝るといいよ」と、示してくれたのは、まさに肉屋の前の通り道。え?ここですか・・・ここ、普通に道なんですけど・・・たしかに、貯蔵庫らしい扉は閉まっているので、搬入搬出の邪魔にはならなさそうな場所なのだが、ここ、普通に、人が通る。と、一瞬ひるんだのだが、まぁ、でも、今日はもう、疲れ果てていたし、こういった店先野宿は、モーリタニアで経験済みなので、そんなに抵抗があるわけでもなく・・・お言葉に甘えて、今日はここに寝かせてもらうことに。

 とりあえず、チャリを停め、テントはどう張ろう、どう寝ようかと悩んでいたら、肉屋のお兄ちゃんが、ちょっとしたカーペットを持ってきてくれた。「これを敷くといいよ」。ああ、なんて優しいんだ。これ、敷き心地がいいし、とにかく暑いんで、今日はもう、テントを張るのは止めて、そのまま寝ることにした。ということで、むき出しの状態で、人が通る場所で寝ることにしたので、荷物は変にバラすより、ファニーバニーに装着したままの方が、返って安全だろうと思い、ファニーバニーの装着もそのままにしておくことに。

 さて、今日はもう寝るか、と思っていたら、アザーンが聴こえてきた。どうやら、この日暮れのアザーンが合図になって、飲食が解禁されるらしい。レストランの方を見ると、皆さんのテーブルに次々にハリラが運ばれていく。そして、人々は、水やヨーグルトをがぶ飲みしはじめた。

 そんな皆さんの飲食姿を見ていたら、あ~、寝る前に・・・なんか暑さバテで食事をする気になれないんだけど、とりあえず、スープくらいは飲んでいくか・・・という気分になるオイラ。で、レストランに行こうとしたら・・・

 肉屋の前で、たむろっていたレストランの従業員の人たちに呼び止められた。「スープ、いるか?」、とのお誘い。どうやら、従業員の人たちは、ここで、まかない飯を食べるらしい。そんなラマダン明けのまかない飯のスープを一杯オイラにくれまして。さらに、ザクロのようなフルーツも3つほど手渡してくれた。ああ、ありがたい、ありがたい。

 いただきま~す、と寝床へ戻って、いただいたスープを飲む。ハリラとはちょっと違うけど、ウマイ。しかし、ラマダン明けは、それまで食べなかった分、豪華な食事を楽しむって聞いてたけど、結構スープだけって質素なんだな。あ、でも、いきなり暴飲暴食すると、お腹がビックリするからな。まずはスープってことなのか。この後、豪華飯になっていくのかな?

 なんて思うオイラだが、ま、暑さバテ中のオイラは、もうこのスープとザクロで腹いっぱい。これだけいただいただけで、十分満足ザンス。その後、水やジュースをバカみたいに飲み始めた、レストランの従業員さんたちの所に、皿を返しに言ったら、「まぁ飲め」と、水とジュースをいただけた。これまた、感謝感謝。

 ラマダン時期の走り、いろいろメンドクサイけど、人々の優しさが心に染み入るなぁ・・・ラマダンってなんのためにやってんだろ、って思っていたんだけど、今日の走りで、ちょっとだけ、その意味がわかったような気がする。

 普段と同じ優しさをもらってるのに、ラマダン時期だと、ラマダンだからって、なんか特別な感情が沸いてくる。ラマダンってたぶん、平凡になりがちな日常に起伏をつけるための、感情コントロールのしかけ。自分がツライからこそ分かる他者の痛み、そして優しさ。一年に一度、こういう一ヶ月があることで、人生が豊かになるのだ(あ、これ、あくまで、オイラの勝手な解釈ね)。

 何の縛りもない人生は逆にきっとつまらない。どこまでも自由になろうとしている日本。その国に住む人に待っている人生は・・・豊かなものとは限らないのでは?なんて、思ったりしちゃった、ラマダン走りのモロッコにて。