Lugar de Dios
神の空間に立ち入った日(フィッツロイトレッキング4日目)

2010.12.10 / Argentina (El Chalten) 本日 自転車0km走行 : Total 24585km走行
天気:晴のち曇
朝飯→パスタ 昼飯→パン 夕飯→ステーキ / 宿→Alb Del Lago(テント泊25ペソ)

(English)
 Today it was fine day. So I could see beautiful scene of Fitz-Roy!!!



(Español)
 Hoy era el día fino. ¡Así que podría ver escena bonita de Fitz-Roy!!!
 昨日一日中降り続いた雪にゲンナリ。おそらく今日も降り続けるのだろうと後二日の長期戦の覚悟をしながらも、心のどこかで、今日は天気が回復しますようにと祈り続ける、相反するオイラの心境。いつものように3時に起床し、テントの外を見てみると・・・

 なんと、満天の星空!!!

 えぇぇ~!!!夜半まで降り続いていた雪が止んだばかりか、濃霧といってもいいほど地上を覆っていた雲はキレイサッパリなくなっている。なんてこったい、あまりにもいい条件への好転に逆に戸惑い、オロオロするオイラ。

 これは、美しい朝焼け風景が期待できるぞ、早速外着に着替え、フィッツロイの麓にあり、目の前に巨大なフィッツロイを拝めるという絶景スポット、ロストレス湖の畔目指して、まだ、真っ暗な中出発。

 持ってきていたヘッドバンド式の懐中電灯を頭に装着し、目の前の道を照らしながら歩く。道中途中にあるリオ・ブランコキャンプ地までは、トレッキング初日に下調べがてら訪れていたため、暗闇の中でも、進むべき道順は分かり、順調に辿り着いた。が、ここからが、難関であった。まったく知らないトレッキングルート、そして、通常でも分かりにくいルートが、昨日一日降り続いた雪により、真っ白にコーティングされ、どこが道だか、サッパリ分からなくなっている。うむむ、困った。ここに来て、またパタゴニアトレッキングルートに負けるのか・・・?いや、それでは、なんのために2日間も、退屈なテント生活を送ってきたのかわからないではないか。ここは負けるわけにはいかない、と執念で道を探し始めるオイラ。雪に埋もれて分かりづらくなっているルートではあるのだが、適当な間隔で、上部が黄色く塗られた木の棒が、<ここがトレッキングルートです>と示す目印として立てられている。雪の上からチョコンと顔を出しているこの黄色の木の棒を探しながら、勘を頼りに、前へと進む。この勘、何度も挑んできたパタゴニアトレッキングの経験により、非常にいい感じで研ぎ澄まされている。途中、何度か道をロストしながらも、勘が教える方向に進み、なんとか黄色い棒と再会するということが続く。

 そうこうしているうちに、周囲が薄明かりを帯びてきて、懐中電灯の光なしでも足元が見えるようになってきた。振り返って東の空を見てみると、赤色に染まり始めている。いかん、これはちょっと急がないと、日の出までにロストレス湖には間に合わなくなっちゃうかも、という焦りが生じ始めた。ちょっと急ぎ気味に山を上ろうと思うが、雪に足をとられ、思うように先に進めない。周囲の山の輪郭が完全に分かるようになってきて、目の前に、フィッツロイの姿が現れた。いつのまにやら、山を上りきり、湖近くへと辿り着いていたらしい。いや、よかった。ここまで来れたら、後は適当に進んでも湖畔へと辿り着ける。夜明けももうちょっと時間がかかりそうだ。ホッとした気持ちで、前に進む。そして、ロストレス湖が見えてきた。湖ごしにフィッツロイが見える。確かにすばらしい風景だ。さて、どこから朝焼けのフィッツロイを拝むべきかと、ポイント探しをはじめる。ロストレス湖を越え、隣にあるスシア湖まで足をのばしてみる。ウロウロした結果、ロストレス湖畔の小高い丘の上からの姿が一番バランスよくフィッツロイを見ることができるということで、ここに陣取ることに決定。日が上るのを待つ。周囲はどんどん明るくなるのだが・・・なかなか日は出てこない。そうなんだよなぁ、日の出って明るくなってからが焦らされるんですよぉ・・・歩き回っている時は、体が火照っているためか、寒さをあまり感じなかったのだが、日の出待ちで、動きを止めてから、体が強烈な寒さを感じるようになってきた。ガチガチガチ・・・さ、寒い・・・ムリにでも体を動かして、体を温めようと、周囲を意味もなくウロウロ動き回る。

 東の空の地平線には雲があった。雲の切れ間から真っ赤な陽が見える。おそらく日は地平線より上に出てきているはず。この真っ赤な陽が当たれば、フィッツロイが真っ赤に染まるのでは・・・西の空は雲ひとつなく晴れ渡っているというのに、肝心の太陽の光が届かない。このまま日の光がオレンジ色に変わってから山に日が当たることになってしまうのか・・・と思った瞬間、フィッツロイが赤く染まり始めた。エル・チャルテンの宿の壁に貼ってあった写真で見た、見事な深紅とはいいがたいが、朝焼けに燃える、素敵なフィッツロイ・・・写真を撮りまくるオイラ。一度光が当たり始めたら、あっという間に山全体が光に包まれていった。

 紅い世界は終わり、その後は、世界は純白が支配する静寂へと変貌を遂げた。カメラから目を離し、ようやく落ち着いて、周囲を眺めたオイラ。

 こ、これは・・・

 朝焼けのフィッツロイも素晴らしかったのですが、目の前に広がる、無垢な純白空間は、それ以上。それまでここに訪れた人の痕跡をすべて雪によって消し去ってしまった非人間的なこの空間は、この世の場所とは思えない、神々しさで包まれている。これか、この世界へオイラを連れてくるために、フィッツロイに住む神様は昨日一日雪を降らせていたのか。

 招待された神の空間。体から力を抜き、自分自身をこの目の前に広がる空間に委ねる。体から魂が抜け出し、オイラという個がこの真っ白い世界に溶け込んでしまうのを感じる。自分が自分でなくなるようなこの感覚、怖いというより、なにか暖かいものに包まれるような妙な幸福感を感じる。日が当たることによって、自身の肉体という感覚が暖かさを感じているのが、まるで他人の体の出来事のように感じる解脱感。これが、神の領域に足を踏み入れてしまった時の気分なのか・・・

 フッと吹いた風の冷たさが、再び自分の意識と肉体を結びつけた。浮遊感は消え、我にかえるオイラ。なんか今、スゴイ体験をした気がする・・・

 もう、大満足デス。昨日一昨日のテント待ちの不満をすべて払拭するこの貴重な体験。そうか、<誰も到達していない世界へ一番初めに到達する感覚>とはこういうものなのか。すでに誰かが道しるべをつけてくれている道を歩くのは、確かに楽だ。が、そこにはすでに誰かの痕跡があり、すでに人間の世界へと変貌した場所なのだ。他の皆が諦め、あるいは馬鹿にして足を踏み入れていない道。そこを進むのは、不安であり、やっかいであり、面倒であるのだが、辿り着く先は、今まで誰も訪れたことのない、非人間の世界=神の領域。そこには、一番最初に辿り着いたものだけが感じ取ることができる、かすかな神の匂いがある、ということを知った。この感覚を体に刻み込めるのは、なんという幸せなことであろうか。

 我に返った後も、しばらくは体を動かすことができなかった。不思議な体験を終えた興奮から体が小刻みに震えている。この震えは寒さのためではない。体は日の光を浴びて温かみを感じているのだから。

 ようやく体を動かすことができるようになったオイラは、先ほど感じた神の匂いを追ってみた。が、そうそう、何度も感じさせるわけにはいかんぞというばかりに、神の匂いは忽然と消えてしまったのであった。

 しばらく湖周辺を散策した後、下山開始。途中、オイラ踏み固めてきた道を辿って上ってくる老夫婦に遭遇。すんません、一番乗りはオイラがいただいちゃいまして・・・

 キャンプ場まで戻り、早速朝食にパスタを作り、平らげる。テント生活はこれで終わりなので、残りのパスタ&ソースを使い切った大盛りパスタ。お腹が膨れたところで一休み。休んでいる間に、朝早くからトレッキングを開始してきたと思われるトレッカーたちが、キャンプ場へと辿り着きはじめた。皆がテントを張り始める中、オイラはテントをたたみ、エル・チャルテンの町に戻るべく出発。と、歩き始めたのだが、来る時は乾いていたトレッキングルートが、ぬかるんでいる。積もった雪が日の光を浴びて溶け始め、さらに、歩いてきたトレッカーたちに踏まれることで、道がドロドロになってきているのだ。そんな足場の悪い中、しばらく歩いた後、今日のフィッツロイに別れの挨拶をすべく振り返ってみると、フィッツロイの姿とともに、初日に見に行った<Piedras Blancas Glaciar>の姿が目に入った。そうだ・・・ピエドラス・ブランカス氷河は、晴れたらもう一度見に行こうと思っていたんだった・・・もう、しばらく歩いちゃったことだし、氷河は諦めて、そのままエル・チャルテンに戻ろうと思ったのだが、新たに雪化粧されたピエドラス・ブランカス氷河は、3日前に見た時より、心なしか迫力あるように見える。これは、このまま無視して帰るワケにはいかない。せっかくフィッツロイで満足したんだから、やり残しはないように、完全燃焼して帰ろうと、氷河を見るために、引き返し始めるオイラ。そして、再び舞い戻ってきたポイセノットキャンプ場前。3日前は、リオ・ブランコを渡って、川沿いの岩場ゴツゴツ道を歩いていったのだが、この道は雪で危険度が増していると思われる。そこで、川を渡らず、対岸の山の上から氷河を眺めることができるという、もう一つのルートを辿って、ピエドラス・ブランカス氷河を見に行くことにした。40分ほどで、ミラドールに到着。ここから見えたピエドラス・ブランカス氷河は、やはり素晴らしかった。これでもう完全燃焼。やりきった満足感で心を満たし、帰りの途につくオイラだったのでした。

 さて、エル・チャルテンには16時過ぎころ到着。荷物を預けてある前回泊まっていたホステルに行ったところ、今日はもう満室とのこと。「だから、出る前に予約してってと言ったのに」と受付のオネェサンに言われたものの、いや、いつ帰るか分かんなかったんだって。現に二泊三日の予定で出かけたのに、三泊四日かかっちゃったでしょ。

 とりあえず、明日なら、ベッドが一つ空いているということなので、明日のベッドを予約して、今日の宿を別の宿で押さえるべく、町中へ。ちょうど、エル・チャルテンの中心にあるホステル兼キャンプ場を発見し、ここでテント泊をすることに。雪で濡れてしまったテントを乾かす意味で、もう一度、テントを広げたかったんですよ。テントをセッティングした後、久々にシャワーを浴び、スッキリ。そして、夕食の仕度をすべく食材を買いにスーパーへ。いやぁ、ここんところずっとパスタもしくはパンという単調なキャンプ飯生活でしたから。ここは、フィッツロイ完全勝利を祝って、豪華にステーキでも食べておくかと、ステーキ肉ビフィ・アンチョを300g購入。宿に戻って、キャンプ場脇に設置されたキッチンで、肉を焼く。そして、パクリ・・・う、うまい・・・

 終わりよければすべてよし。最初はどうなることかと思ったフィッツロイトレッキングですが、最終日に神の領域に足を踏み入れてしまうほどの貴重体験をさせてもらって、ホント、素晴らしく満足した心で、終えることができましたぜい。