Viento de Patagonia
パタゴニアの爆風を楽しみにしていたんですケドも

2010.12.13 / Argentina (La Irene~El Calafate) 本日 自転車56km走行 : Total 24783km走行
天気:晴 ネット:1
朝飯→パン 昼飯→パン 夕飯→焼肉エントラーニャ / 宿→Fuji旅館

(English)
 Today it was very strong wind day. It was too hard wind so I could not run on the road by bicycle.



(Español)
 Hoy era el día del viento muy fuerte. Era el viento demasiado duro para que no pudiera proponer en el camino a bicicleta.
 バタバタバタバタ・・・

 風の音、というより風でテントがなびく音で目が覚めた。まだ夜明け前なのに・・・と眠い目をこすりこすり起き上がる。ん?風の音?あれ、昨日風が入り込んでこない場所にテントを張ったはずなのに・・・と思って外へ出ると、風向きが変わっていた。昨日はどちらかというと真西風だったのに、今日は若干南よりの西風。昨日は完璧に風除けをしてくれていた廃車の脇から風がゴーゴーと入り込んでいる。

 風がゴーゴー?

 そう、今日は朝からものすごい爆風が吹き荒れているのですよ。廃車脇から流れ込む風だけでもスゴイ威力で、テントがバタバタと捲り上げられている。そして、気付いたら、風上側のペグが吹き飛ばされているではないですか。昨日、相当しっかり打ち込んでおいたというのに。風除けがなかったらテントごと吹き飛ばされてもおかしくない状態だ、これは。

 いやいや、この旅一番の風だぁ、なんて思っていた昨日の風なんて目ではない。なんとも形容のしようがない、自然の暴力としかいいようがないほどの横殴りの暴風。このままほおっておくとホントにテントが飛ばされてしまいそうなことになってきたので、サクッとパンを食べて朝食をすませ、テントを片づけ出発・・・が、自転車が進めない。右斜め前から殴ってくる強烈な風にあおられ、自転車に乗ってこげない。頑張ろうと踏ん張っても、ハンドルをとられてしまい、いつの間にやら、反対車線である左側の道路の路肩に突っ込んでいる。

 これが、噂に聞いていたパタゴニアの風か・・・

 <それは聞きしに勝るモノスゴサだった。風はこの世のものとも思えないような恐ろしいうなり声を上げ、横からメチャクチャに吹き付けた。僕たちは紙相撲の力士のように、何度も何度もあっけなく風に押し倒された>・・・行かずに死ねるか!の著者石田ゆうすけさんは、パタゴニアの風のことをこう記していた。オイラをこの旅へと駆り立てた<行かずに死ねるか!>を読んで、ほとんどはワクワクと心踊らされていたのだが、実は、3つほど、オイラが恐れを抱いたものがある。これは、旅で出会いたくないなぁと思ったもの3つ。その中の一つが、このパタゴニアの風であった。

 で、パタゴニア地方に突入し、アウストラル街道を走っている時に出会った強い風。なるほど、これは爆風だ。メンドクサイ風だなぁとは思ったものの、紙相撲の力士のようにあっけなく押し倒されるほどの風ではない。石田さんも大げさな表現をするもんだ。パタゴニアの風、結構耐えられるじゃないか、と思っていたのです。

 が、今日の風。こいつが<ザッツ・パタゴニアの風>でした。今までの強風は、パタゴニアの風なんかではない。この暴力的な爆風こそが、パタゴニアの風だったのです。いや、ホントに、ちょっと力を抜くと、紙相撲の力士のように自転車ごと押し倒されてしまう。あの表現は、大げさでもなんでもない、事実。相当重い荷物を積んで、ヘビー級のファニーバニーさえ、油断していると、前輪が浮き上がってくるのだ。どは~、これはとんでもない。力を抜かないように、自転車を支えつつ、一歩一歩前進する。横風を耐えるのは大変で、とてつもない暴風が迫ってきた時には、なるべく風を正面から受けるように体勢を入れ替える。そんな感じで、倒れないよう倒れないよう、自転車に神経を集中しながら、進んでいく。と、また横から爆風が吹きこんできた。反射的に、自転車ごと風方向に切り替えようとしたのだが、足がフロントバッグに当たって、一瞬動きが遅れた。その瞬間、眼鏡が吹っ飛んだ。いや、何かにぶつかったワケではない。暴風によって横っ面を殴られたような感じになり、眼鏡が吹っ飛んでいったのだ。そして、眼鏡はそのまま風に流され、反対車線の路肩の奥に広がるパンパへと飛ばされていく。「あぁ~、メガネメガネ・・・」すぐにでも追っかけて行きたいところだが、自転車を立てておいておくわけにもいかない。この爆風の中、スタンドで立たせても、倒されてしまうのは明らか。ヘタすると、スタンドを折ってしまいかねない。しょうがないので、自転車を横倒しにして、風に連れ去られてしまったメガネを追ってパンパへ突入。幸いメガネは、背の低い木に引っかかって止まっていてくれた。なんてこったい・・・メガネバンドなんてものは持っていない。でもこのままでは、また風にもっていかれるだろう。しょうがないので、ヘアバンドをメガネにかぶるように深くかぶり、ヘアバンドによって、メガネを頭に密着固定させて、飛ばないようにした。

 その後も、横から暴風が吹き荒れる中での走りが続いた。大変な状況ではあるのだが、人間、次第に自分の置かれた状況を楽しむようになってくるものらしい。だんだん、横風状況での走り方が分かってきた。自転車にまたがり、強烈な横風が吹いたら、まず、この横風に自転車ごと身を委ねてしまう。当然、風に流され、反対車線へと連れて行かれる。と、この横風、常に同じ強さで吹き荒れているわけではなく、風の強弱があるのだ。で、反対車線へと連れて行かれていく間に、風が弱まったところを狙って、ハンドルを右に切り、一気に漕いで、再び右車線の路肩脇まで自転車を持っていく。これを繰り返すことで、風の力をかりつつ、前進することが可能になってくるのだ。これ、なんか、風に乗っている感覚を味わえて、結構楽しい(ちなみに、これは、前後から車が来ない状況でやらないと危険デス、はい)

 そんな感じで、横風対策をマスターしながら、走っていると、後ろからきた車がオイラの前で止まった。「乗っていく?」どうやら、爆風の中自転車で走るのは無謀と思ってくれたのだろう。親切にも、車に乗ったオバさんが、声をかけてきてくれた。横風走りが意外と面白くなってきてしまったオイラとしては、もうちょっとパタゴニアの風を楽しみたい。せっかくのご好意でしたが、ここは丁重にお断りし、そのまま風の中を走り続け、50kmほど走ることができた。目的地のカラファテまではあと30km。ここで、一旦ルート40とはお別れとなる。L字のカーブを曲がり、カラファテ方面への道に入り込んだ瞬間、今まで横風だった暴風が、正面から吹き込んできた。「うっ・・・」思わず息ができなくなるほど、風が顔を圧迫してくる。ここから、自転車をまったく進ませることができなくなった。乗ってこぐなんて、とんでもない。降りてひたすら、押すしかない。GPSに表示される時速を見ると3km/h。「・・・」歩くより遅いじゃないか。しかも、この時速、コンスタントに出せているワケではない。あくまで進んでいる時の時速。少し進んでは止まり、少し進んでは止まりの繰り返しで前進進んでいるため、実質的な時速は、1~2km/hではないかと思われる。30kmの道のりを2km/hで進むとしたら、かかる時間は15時間・・・いや、道はなんてことはない、舗装道路なのですよ。風さえなければ2時間あれば走り切れそうな道。それが、15時間かかるなんて。

 この30kmの道のりが果てしない道に思われる・・・

 途方にくれました。やっぱりパタゴニアの風とは対決したくありませぬ。あぁ、さっきのオバさんの好意をおとなしく受け入れておけばよかったなぁ、とここで後悔。この調子では、今日中に着くのは不可能。だったら、こんな暴風の中、ムリして走ることはなく、明日、風が止むのを期待して、今日の走りはもうやめにするか、と思うも、周囲は何もない平坦な荒野。テントを張ったら、確実にテントごとぶっ飛ばされそうな、どこもかしこも、超暴風地帯。

 しょうがない、もうちょっと前に進むか、と亀のように進むオイラ。途中、何台も車が追い抜いていく。荷台が空いている車を見るたびに、「あぁ、乗せていってくれ~」と思うも、声をかけたい時には、車はすでにはるか先へと行ってしまっている。もうダメだ、そう思った時、一台の車がオイラの脇に止まった。運転席を見ると、オジさんが(乗せてけ)とジェスチャーで、後ろの荷台を指差してくれている。

 ムチャス、グラシアース!!!!!!!

 もう、考える間もなく、このご好意に甘えることにしました。ガス配達中らしいオジさんの車の荷台には、黄色いガス管がゴロゴロと乗っていたのですが、そのガス管の脇に、荷物や自転車を乗させてもらい、オイラは、助手席へ乗り込む。

 地元のオジさんが言うには、今日の風は、最近吹いた風で最も強い風だと。今日はあまりにも風が強いため、車でさえ、なるべく道路を走らないように、という注意勧告が出ているとのこと。いやはや、やっぱり今日オイラが体験した風は、ザッツ・パタゴニアの風の最上級バージョンだったワケですな。いや、もう完全に負けました、この風にはかないませぬ・・・

 車だと30kmなんてアッという間。カラファテの町に入り、セントロで下ろしてもらった。ホントにありがとーございました、オジさん。オジさんが助けてくれなかった、泣いてましたよ、と、オイラの持っているスペイン語ボキャブラリの感謝の意を述べる言葉を全て並べて、オジさんにこれがどれほどの助けになったことかを伝え、お別れする。

 さて、町中は、周囲に建物や木々があることもあり、先ほどの荒野ほどの風ではない。それでも強風の中、宿を目指して走り始める。目指すは藤旅館。カラファテにある日本人&韓国人宿だ。そろそろオンシーズンになってきたパタゴニア、結構込み合っているという噂も耳にしていて・・・空いているといいなぁ。ここいら辺でマッタリノンビリしておきたい。戦いに負けた戦士の心を癒して欲しいなんて、思いながら、到着した藤旅館の呼び鈴を鳴らす。「ベッド、空いてますか?」「空いてますよ」おぉ、よかったぁ、そして、どうやら最後の一ベッドだったらしい。ラッキーです。

 そして、宿に入ると、どこかで見た顔が・・・ん、フィッツロイトレッキング初日に出会った日本人青年じゃないですか。「あれ、チャリダーだったんですね」と声をかけてきてくれたのは、その日本人青年、リョウマくん。驚いたことに彼もチャリダーらしい。「僕は、パタゴニアだけですけど」というリョウマくんは、プエルトモンから走り始め、ルート40を通って南下してきたとのこと。おぉ、久々に日本人チャリダーと出会えたのが、嬉しい。リョウマくんとは、夕飯を作りながら、お互いの走ってきたパタゴニアについて語り合ったのでした。

 さてさて、早速シャワーを浴びて、くつろぎモードに入ったのですが、日本人宿に到着したら、ぜひやっておきたいことがありまして。それは<洗濯>。日本人宿では洗濯機を使わせていただける場合が多いのですよ。普段手洗いで洗ってはいるんですけどね。結構いいかげんな洗濯しかしないんで、服がどんどん黒ずんできているんです。で、ここ藤旅館で、洗濯機を使わせてもらい、大量の服を大洗濯。2時間ガタゴト洗濯機をぶんまわした結果・・・いや、驚くほどきれいになっていました。もう、首元とか真っ黒になっていたウィンドブレーカーは、キレイなオレンジ色に復活。あぁ、やっぱりキレイな服は気持ちいいモンですな。