Nairobi Dangerous City
前言撤回、ナイロビはやっぱり危険だった

2011.11.20 / Kenya(Nairobi) 本日 自転車0km走行 : Total 35067km走行
天気:雨のち曇 ネット:1
朝飯→サモサ&チャイ 昼飯→ピラウ 夕飯→サモサ&チャイ / 宿→Destiny Hotel(850ケニアシリング)

(English)
 Today I stolen my digital camera in downtown of Nairobi...



 今日も、一日、穏やかなナイロビ生活を過ごしているはずだった。

 なのに・・・
 

 ナイロビのダウンタウン、ナイロビ川を渡り、更に下町の方にいくと、古着を安く売っているという<ギゴンバマーケット>なる市場があると聞きまして。長袖のアンダーシャツがボロボロになってきちゃっているので・・・そろそろ新しいのを買わなきゃいかんな、とギゴンバマーケットまで買い物に行くことにしたのです。

 マーケット周辺は、ちと怪しい雰囲気。一応、オイラの中の危険センサーは反応していた。ああ、この辺が、危ないと言われている地域なのかな、と思い、とりあえず、長袖のアンダーシャツだけ購入して、さっさと街の方へ戻ることにしたのですが・・・マーケットのある怪しい雰囲気の界隈と、賑やかな街のちょうど境目くらいまで戻った時、このあたりまでくれば、もう大丈夫かな、と、いつもの癖で、ポケットからコンデジを取り出し、ダウンタウンの風景の写真を撮り始めた。と、その瞬間、

 「ドン!」

 と、手に衝撃が走った。そして、今までこの手に握っていたコンデジがなくなっていた。一瞬何が起こったのかわからなかった。ひったくりにあってしまったということに、気づくまで数秒の時間が必要だった。

 一瞬固まった後、カメラを意図的に盗られたということに気づいたオイラ、カメラを奪って逃げようとする黒人の男を追いかけはじめた。意外と足が遅かったその男、もうすぐで追いつけると思ったとき、その男が、カメラを放り投げた。そのカメラを宙を舞い、離れた場所に居たもう一人の男がキャッチ。「しまった・・・仲間がいるのか・・・」と、思い、今度は、カメラをキャッチした男を追おうと思って向きを変えた瞬間、今度は、体に衝撃が走り、メガネが吹っ飛んだ。先ほどまで追っていた男が、オイラの追跡を妨害すべく、体当たりしてきたのだ。

 逃げる二人。慌てて、メガネを拾い、追うオイラ。何が起こったか分からないのか、それとも、いつものことだと思っているのか、完全傍観者な、周囲の人たちの雑踏を駆け抜けながら、展開される追跡劇。ダウンタウンの奥へ奥へ逃げる二人。引き離されるワケではないのだが、追いつけない。今朝方降った雨によって、道路は泥だらけで足をとられまくり。そして、走りづらいサンダルが、恨めしい。さらに怪しい袋小路の方へと逃げていく二人。で、3mくらいの壁に囲まれ、この先行き止まりな道に入り込んだ。しめた、追いつけた・・・と思ったら、犯人の二人は、壁の横に、うずたかく積まれていた、生ゴミの山に駆け上り、そのまま壁を越え、向こう側へと逃げていってしまった。まるで映画のワンシーンのようだった。

 息を切らしながら、後を追って生ゴミの山にのぼるオイラ。猛烈な刺激臭が鼻につく。壁の向こう側を覗いてみると、スラムっぽい建物が連なっている。無我夢中で追ってきて、入り込んでしまった、このあたりでも充分危険を感じる場所なのだが、この先は、ホントに、危険なかほりが漂ってきている。遠くに逃げていく二人を眺め、この先追っていくべきか、と躊躇していたところ、騒がしさに気づいたスラムの人たちが、ワラワラと、出てきて、オイラの周りに集まり始めた。危害を加える様子はなく、「どうした?」と、気遣ってくれる風ではあったのだが、<黒人にカメラをひったくられた>という衝撃を体験してしまったオイラ、今は、周囲に群がる黒人、誰をも、信用することはできない。皆が皆、オイラを襲うつもりなのではないか、という疑心暗鬼にかられる。

 これ以上深追いすると、もっと危険な目にあうかもしれない。悔しいのだが、追えるのはここまでだった。

 -「安全だ」と言う人はそれまでたまたま安全だったというだけで、次の瞬間には被害に遭うかもしれないのだ。『歩き方』は大げさに書いているとたかをくくって被害に遭わないでほしい。-

 地球の歩き方のナイロビのページに書かれていた文字が、頭の中をぐるぐる回る。6日前の日記には、ナイロビ、意外と大丈夫です、なんて書いていたオイラ。完全にたかをくくっていた・・・いや、というか、白昼堂々と、人通りのある場所で、人のものを奪うなんてことが起こりうるなんてことはないと、思い込んでしまっていた。

 危険だと言われている場所で、無防備にもカメラを取り出してしまった自分の甘さにまず腹が立った。

 ひったくりなんて、人生初めて体験した。こんなにもあっけなくモノが奪われ、周囲の人が意外にも、無反応だとは。

 そして、コレを実体験することで、一番気づかされたのは、モノを盗られたというコトより・・・<向けられた悪意>によって、こんなにも心が蝕まれてしまうという事実だった。

 とぼとぼと、街に戻るオイラ。いつもなら、笑って返せる「コンニチワ」という黒人からの挨拶も、笑ってなんて返せなかった。というか、むしろ、こういうことに、いちいち<イラッ>とさせられる自分がいた。

 心が変わってしまった。黒人に対して、いや、人に対して、自分の心が、一重にも二重にも、バリアが張られてしまったのを感じる。

 警察に、とも思ったのだが、たぶん、被害届けを出したところでもう、戻ってはこないだろう。あんな場所でカメラを出したお前が悪いと言われて終わるに決まっている。それに・・・今まで3年間、モノを盗られることなんてなかったオイラ、つい先日の保険更新の際、携行品損害の項目は、もう必要ないと判断して、削除してしまっていたのだ。なので、ポリスレポートをもらったところで、保険料が下りるわけでもない。

 保険に入っている時は、損害には遭わず、保険から外れた途端に、遭う損害。ああ、アンラッキーな出来事のタイミングとは、こういうモノなのだ。

 不覚だった自分を責める自身。どこまでも落ち込む気分。とりあえず、少しでも自分を元気付けようと、飯を食べることに。で、飯を食って、ちょっと気分が落ち着いてきたら・・・盗った犯人二人に対して、猛烈に、怒りが沸いてきた。いや、確かに、不注意だったオイラ自身も悪かったが、それ以上に悪いのは、人のモノを盗った、あの二人だろう。どう考えても、泥棒が悪い。この沸々と心の中で湧き上がるやり場のないモヤモヤ感は、自己反省に向けるのではなく、盗った二人への怒りとして向けるべきものなのだ。ちくしょう、オイラのカメラを・・・

 ああ、なんか不条理だ。そう、悪意ってものは、いつだって不条理なのだ。だからこそ、その悪意を浴びてしまった当人は、困惑する。やり場のない気持ちだけが、残される。