Murshi People
そうだ、ムルシの人たちに会いたかったんだ

2012.2.17 / Ethiopia(Key Afar~Jinka) 本日 自転車0km走行 : Total 36729km走行
天気:晴
朝飯→アンバシャ 昼飯→パスタwithベジタブル 夕飯→ベジタブルスープ / 宿→Red Cross Pension(150ブル)

(English)
 Today we went to Jinka. When we walked in Jinka town, we could meet with Murshi people. I wanted to meet with Murshi people for long time.



 なかなか寝付けなかったために、すっかり寝不足なオイラ。「チャットの噛みすぎで、眠れなかったよぉ~」というオイラに、「チャットのせいで眠れないなんてことはありえないぞ。ヨシ、眠れなかったのは、きっと別の理由だ」というベンジ。いや・・・チャットってコカの葉みたいに覚醒作用があるんでしょ、元気になるんでしょ、興奮しちゃうんでしょ。だったら、とりすぎたら、眠れなくなるってもんでしょ・・・こんなに、効くのなら、調子に乗って、チャットを噛みすぎるんじゃなかった。ベンジは、今日もチャットを買ってくるって言ってるが、今日は控えめにすることにしよう。(後で、ネットで調べたら、やっぱりチャットは噛みすぎると眠れなくなるらしい。カフェイン成分が含まれているとのことなのだ)

 さて、今日は、ジンカって町に移動。アルバミンチ~カイアファール~ジンカの道は、ところどころ未舗装地帯もあるものの、舗装されている箇所も多い。それだけ交通量があるってことで、ジンカまでだったら、なんとか自力でもバスを見つけて行くことはできそうな雰囲気。と思ったものの、来るバスはフルフル状態で、乗車拒否にあうハメに。やっぱり、オモバレー、移動が大変なのねん・・・2台ほどスルーされ、「とりあえず、朝飯を食うことにしよう」といい始めたベンジ。朝飯を食い始めたら、また一台のバスがやってきた。「一応、交渉してくる」と言って、バスに向かったベンジ。アンバシャをパクつきながら、ベンジを見ていたら「ヨシ、すぐ来い!」と招きのベンジ。おお、そのバスには乗れるのね。あわてて、食べかけのアンバシャを持って、バスに乗り込むオイラたち。

 さて、カイアファールージンカは、そんなに離れておらず、あっという間。そして、到着したジンカは、このあたりでメインとなる町という割には、思ったより田舎な感じの町だった。宿にチェックインした後、とりあえず、明日開催されるマーケットの場所へ行ってみることに。ひょっとしたら、マーケットにあわせて来ているムルシの人たちが、前日である今日、ウロウロしているかもしれないって、ベンジが言っていたからだ。ちなみに、ムルシの人たちが住む地区は、ここ、ジンカから歩いて二日くらいかかる場所にあるらしい。彼らは、マーケットに合わせて、二日かけて村から歩いてやってくるとのこと。往復四日ですがな。いやぁ、買い物するって大変なんですな。

 さて、マーケットが開催されるという場所、前日だというのに、品物を並べちゃっている出店もいくつかある。そんな出店を見ていたら、他の人たちとは一線を画し、異彩を放つ人たちの姿が・・・「あれ・・・ひょっとしてムルシの人たち?」とベンジに聞くと「そうだ」と。そして、「ヨシ、お前はラッキーだぞ。今日はムルシの人たちがいっぱいいる」と、ベンジ。慌てて彼らの後を追ってみると、女の人の下唇がベローンと伸びきっている人たちが。

 おお!!!ムルシな人たちだ!!!

 ムルシ族・・・オモバレーにあるマゴ国立公園のさらに奥の奥地に住む、少数民族。女性が、下唇に穴をあけ、その穴に巨大な皿を入れるという、耳プレートならぬ、唇プレートという奇妙奇天烈な装飾が有名。オイラも、このムルシの女性の唇プレートの写真を見て、度肝を抜かれてしまい、それ以来、絶対この目で、その姿を見るんだ!って、憧れを抱くようになったのです。

 その、憧れのムルシの女性が、今、目の前に!

 エチオピア、どちらかというと、褐色の肌の人が多いのだが、ムルシの人は真っ黒。たたずまいが、なんとなく、マサイの人たちに似ている気がする。なんか気品があって威圧感がある感じ。近寄りやすいエチオピア人の中、彼らが放つ攻撃的なオーラは、彼女ら、彼らを余計際立たせている。

 いや、テンションあがりました。昨日の、バンナ・ハマル族の人たちには申し訳ないですが、昨日とは比べ物にならないくらいテンションがあがっちゃいました、オイラ。ちなみに、普段の姿のムルシの女性は、唇にお皿を入れていない。穴の開いた下唇をベローンと伸ばしきって歩いている。その姿は、あまりカッコイイものではないのだが、この唇に、お皿を入れた途端・・・輝くのですよ、彼女たちは。うぉぉ、お皿を唇にハメているところが見たいんですけど!!!って、ベンジにお願いして通訳してもらう。ちなみに、ベンジは、この辺の人たちの民族が話す言葉は、ほぼ全部しゃべれる。

 で、一人のおねえさんが、木のお皿を取り出し、唇にはめてくれた。

 ふおお・・・

 なんと形容していいのだろうか、この異形な感じ。写真をみてもらったら分かるように、さらに威圧感の増した奇妙な顔立ちになる。この感じ、写真で見るより、実際に見たほうが、遙かに圧倒される。なんで、こうしちゃったのという驚きと、人間の体は、ここまでこうなっちゃうのかという驚きと、そんなビックリな姿なのに、美しく見えてしまうという感嘆。こういうオシャレを最初にしようとした、ムルシの祖先の人は、なんて美的センスをもっていたんでしょ。そして、それに感化され、みんなでやるようになったムルシの女性たちも、素敵な感覚の持ち主だ。

 さて、そんな姿をぜひとも写真に収めておきたい、オイラ。お皿をつけてくれたおねえさんの写真を撮りたいって、交渉してもらうと、3ブルとのこと。ハイ、3ブルならオッケーです。ムルシの人たちを撮るために、アディスから1ブル札を大量にもってきましたから。ここでは、ワンショット3ブルっていうわけではなく、1回3ブルって感じだったので、すばやく、数回シャッターを切る。

 しかし・・・こういう、お金を払って対面で撮らせてもらう写真ってホントは苦手なんですよねぇ。だって、相手は、お金をもらったからっていうことで、<撮られなきゃ>っていう意識でポーズをとっちゃうワケで。そこに写ってしまう関係性は<撮らせてもらった関係>。撮ったではなく、撮らせてもらったっていう部分がどうしてもにじみ出てしまう。こういう撮られることを商売にしちゃっている人たちは難しい。特に、マグロ派な人たちはとりわけ難しい。商売にしちゃっている人でも、撮られることを楽しもうって思ってくれている人はまだいい。オイラのアクションに対して、リアクションを返してくれるからだ。そのリアクションが、固まりつつある表情や動きを緩め、より自然な体の表情に移行してくれる。この瞬間にオイラはシャッターを押すのが好き。そうそう、前に、オイラが写真を素材にしてムービーを作ったことがあったのだが、オイラの写真をずっと見ててくれた人が、そのムービーを見て、こう言ってくれた。「ヨシさんの写真、あえて水平に構えていない構図が多いじゃないですか。アレってなんでだろって思っていたんですけど、このムービーでの写真の動かし方を見て分かりました。ヨシさんって、写真に動きを入れたい人なんですね。」そう、動きが止まってしまったり、関係性が固まってしまったように感じられる写真は、好きじゃないんです。時間の一瞬を切り取る写真であっても、そこに動きを入れたい。生き生きした動きや、動的で柔らかい関係性を切り取りたいのデス。

 が、おそらく多くの観光客に撮られすぎて、写真に飽き飽きしているのであろうお皿をはめてくれたおねえさんは、完全にマグロ派な人だった。なんとか表情や動きをつけてもらおうと、試みたのだが、体の表情が自然になってくれなかった。まぁ、お皿を唇にはめ込んだ状態では、笑えないだろうケド・・・でも、おねえさんの眉間に寄せた皺はなんとかしてとり除きたかったんだけどなぁ・・・

 そんなおねえさんの横で、赤ん坊を抱えたお母さんムルシの人が、お茶目にも、ペットボトルを下唇にぶら下げて見せてきてくれた。おほ、この人は茶目っ気がある。このお母さんを撮りたいって言ったら、お母さん、やっぱりお皿を下唇に入れ、さらに、わざわざ、衣装のかぶりものまでしてくれた。おお~、ありがと~、お母さん。

 そして・・・ムルシの人たちは、やっぱり女性でしょ。お皿を唇にハメているのは、女性だからね、って思っていたのですが、写真を撮っているオイラに群がってきたムルシの人たちの中に、若者の男性を発見。この人たちの、たたずまいも雰囲気があってよかったので、この人たちも写真を撮らせてもらうことに。いいじゃないか、ムルシは男性も。ん、何がよかったかって、肌に刻まれた模様のある傷跡が、最高にかっこよかったのですよ。まぁ、タトゥーみたいなものですな。熱したナイフを使って、肌にヤケド傷をつくってこの模様を刻んでいくらしい。タトゥーって、オイラ的にはちょっと引いちゃうところがあるんだけど、この刻まれた模様には魅せられてしまった。あ、もちろん、この傷模様、ムルシの女性も体に入れてます。

 いやぁ、ジンカでしかも、マーケット前日にこんなにムルシの人たちに会えるなんて思っていなかった。しかも、こんなにフレンドリーに写真を撮らせてくれるなんて(ま、もちろん、お金を払ったからなんだけど)。

 ムルシの人たちに別れを言い、大興奮でマーケット広場を後にするオイラたち。で、昼飯を食べながら、いろいろ考えてみた。このドキドキ。うむむ、やっぱりオイラは、ムルシの人たちに逢いたかったんだと。マーケットを見たかったワケではない、みんながいいって言ってたバンナ・ハマル族の衣装を見たかったワケでもない。昔から憧れていた、ムルシの人たちに逢いたかったのだ。ムルシの村に行くのは大変(お金がかかる)ってことで、まぁ、ジンカで会えればいいや、くらいに軽く考え、その代わりの埋め合わせとして、バンナ・ハマル族の人たちの村に行くことで満足しようとしていたオイラ。それは、心をごまかそうとしていただけだったのだ。本当は、ガッツリ、ムルシの人たちに会いたかったのだ。オイラにとって、南部オモバレー民族旅は、<ムルシ族に逢う旅>だったのだ。そのことに、やっと気づいた。その証拠に、昨日、バンナ・ハマル族の人たちに出会った時に感じてしまったモノ足りなさが、今や完全に埋まってしまって、大満足しちゃっている自分がいるじゃないか。

 「ベンジ、ちなみに、予定を変更してムルシの村に行くのって可能?そしていくらくらいかかる?」

 と、オイラの口はそんな言葉を発していた。そうだ、これが今の気持ち。この後の予定がどう狂ってしまうことになろうとも、ムルシ村に行ってみたい。

 「もちろん、ヨシがそう望むのであれば、そうするよ。そして、ここからムルシ村まで車チャーター代が追加で160USドル」、とベンジ。

 160ドルかぁ・・・行きたいとは思ったものの、すでにガイド料として300ドル払っていることを考えると、高い。ああ、これなら、ジンカまで自力で来て、ここからムルシ村に行くよう手配すればよかったなぁ・・・なんて考えてもみるのだが、そこは、そうなるなんて、あの時には考えて居なかったワケですし。

 「しばらく考えさせて」

 と、昼食後、宿に戻って、考え込むオイラ。まぁ、こういうのは考えてもしょうがないのだが。行きたいと思ってしまった心はすでに抑えられない。あとは、160ドルを追加で支払うことを、自分に納得させる時間が欲しいだけなのだ。そんなオイラの様子を見て、「コーヒーでも飲む?」と気遣ってくれるベンジ。ここ、ジンカ周辺はコーヒーの産地であり、この辺に住むアリ族が作るコーヒーは、コーヒーで名高いエチオピアの中でも、特においしいと評判のコーヒーとのこと。ということで、コーヒーを飲みながら、物思いにふけるオイラ。むむ、このコーヒーは確かに美味い。っていうか、オイラもだんだんコーヒーの違いが分かるようになってきたようだ。

 オイラが考えている間、ベンジはチャットタイム。「ヨシ、ここ、ジンカのチャットも、コーヒー同様に、評判がいいんだ。昨日のチャットとは比べものにならないくらいいいから、試してみ」と言われ、チャットを噛みながら、物思いにふけるオイラ。むむ、このチャットは確かに美味い。っていうか、オイラ、チャットの違いも分かるようになってきたようだ(ちなみに、エチオピアでホントにウマイチャットは、ハラール産のチャットらしい)。

 そこへ、ベンジの友達が訪ねてきた。チャットをしながら、なにやら話し始めた二人。しばらくして、その友達がオイラに言ってきた「バイクでよければ、ムルシ村まで85USドルで連れて行ってあげるよ」と。

 なぬ~、半額。それは願ってもいない話デス。ぜひそれでお願いします、と即決。ただ、結構ガタガタの荒れ道を、二ケツで、延々乗って行かねばならないらしく、相当タフであることは間違いないらしい。いやぁ、まぁ、その値段でムルシの村に行けるのであれば、なんだって我慢しますよ、がんばりますよ。

 ってことで、予定変更。明日、朝早くにムルシ村に行ってくる事に。

 「そうと決まったら、ちょっとバイクに慣れておくか?」ということで、夕刻涼しくなってから歩いて行く予定だった、ジンカの裏山の上にある博物館に、バイクで行くことに。バイクタクシーの人のバイクを、ベンジが借りて運転し(IDカードを渡せば、一時的に借りれるらしい)、オイラが後ろにまたがって、博物館へ。

 訪れた博物館は、オモバレー地区に住んでいる民族の人たちをガッツリ紹介する興味深いものであった。もちろん、オイラはムルシの人たちの展示ゾーン前に釘付け。

 あああ、明日が楽しみだぁ。今日は、チャットのせいじゃなくて、ムルシ村に行けるっていうことへの興奮で眠れなくなりそうだぁ。