Fantastic natural phenomenon
雪と雲が作り出す幻想的風景

2012.11.5 / Austria→Italy(Innsbruck~Sterzing/Vipiteno付近) 本日 自転車69km走行 : Total 41483km走行
天気:雨のち曇のち晴 ネット:1 自転車折りたたみ:1 シェンゲン67日目
朝飯→宿の朝飯 昼飯→パン 夕飯→ソーセージなど / 宿→川のほとりで野宿

(English)
 I entered to Italy.



 昨日の夜、ネットで天気予報をチェックして、嫌なものを見てしまった。明日のインスブルックは大雨だと。そして、朝、窓の外を見ると、予報どおり、大雨。

 いやぁ、停滞している時間はないのですよ。この後、イタリアそして、ギリシャに行かねばならないのに、シェンゲンがあと23日しか残っていない。雨が降っていたとしても・・・走るしかないのです。

 雨カッパを着て、インスブルックを走り始める。今日はもう、イタリアへ突入するつもり。今回オーストリアは一日の滞在になってしまったんだけど・・・オーストリアは、次の夏、もう一度欧州に戻ってきた時に、ガッツリ走るつもり。自称ミュージシャンとしては、音楽の都ウィーンにはめっちゃ興味あるし。

 厚い雲が覆うインスブルックの街。昨日眺めたオーストリア・アルプスは、雲に隠れちゃってまったく見えない。う~ん、山が魅力の街なのに、山が隠れちゃっって・・・ああ。とりあえず、降ったりやんだりする雨の中、やんだタイミングで、カメラを取り出し、街の様子を撮影。

 さて、インスブルックの町を抜けると、すぐに上り坂が始まる。ここから峠越えの始まりだ。この峠を越えると、イタリアへ入国することになる。

 相変わらず雲に隠れっぱなしの風景で、テンションはあがらないのだが・・・ドイツでメンテしてもらったファニーバニーの調子がめっちゃいいので、チャリ走り的には、気分はノリノリ。今まで、峠越えとかいって、ちょっと坂がキツくなったら、すぐに降りてチャリを押していたんですよ。無理して力を入れてこぐと、変な異音がしはじめて、ひょっとして壊れてしまうんじゃないかと気になってしかたない、っていう現象が起こっていたので。で、この異音が、リアのスイングアーム部を直してもらったことで、消えまして。変な心配をしないで、坂道に挑めるようになったのですよ。これが、楽しくて。やっぱり、道具がちゃんと動作するっていうのは大切ですな。特に、自分の脚となるチャリは、できれば、常に万全の状態でありたい。

 さて、そんな感じでノッてきたオイラの気分に連動するように、厚くたちこめていた雲が次第に薄くなりはじめ、青空まで覗くようになってきた。さすが、晴れ男のオイラだ。久々にサンパワー全開で、太陽を呼び出すことに成功。

 そして、ここから風景が超絶景となった。完全には消えていない雲、そして、峠を登れば登るほど白さを増していく雪、彩り鮮やかな紅葉、そして、青空。このコンビネーションは、最高に幻想的な風景を演出して、オイラの目の前に提示してくれた。

 チャリの調子は最高にいいし、風景も最高なものになり、これ以上の楽しさはないってほど、走りが面白い。大変な峠越えもなんのその。あっという間に峠天辺にある、オーストリアとイタリアとの国境の町ブレンネロに到着。

 ブレンネロの町は、標高1375m。そんなに高くないとは思っていたのだが・・・雪かきされた道路以外の場所は、雪が積もっているような状況。ふおお、この時期になると、もう、標高1000mを越えたら、完全に白い世界になってしまうのか、アルプスでは。なるほど、こりゃ、2000mを越えるスイスの峠は、封鎖しちゃうワケだ、と納得。

 そして、ブレンネロの町を通り過ぎ、ここからひたすら下り坂。一気に300mくらい降りてきたら、もう、周囲から白いものが消え、白く化粧された山々は仰ぎ見ないと目に入らなくなってきた。

 さて、イタリアに入ったら、車が通る道路とは別に、サイクリングロードらしき側道があった。ふむふむ、これは走りやすいぞ、と、側道の方を走っていたら、いつのまにやら、車の幹線道路と離れてしまった。しまった、この側道は全然違うところに行くのかも、と、慌てて手持ちの地図で確認。そうそう、イタリアは道路地図を買ったんですよ。いろんな旅人からいい評判しか聞かないイタリア、楽しそうなんで、この国はガッツリチャリで走ろうって思いまして。そして、ガッツリチャリで走るのなら、紙ベースの地図があったほうがいいだろうって思いまして。で、早速役に立つことになったこのイタリア地図。この地図によると、このサイクリングロードは、変な方向にグネグネ迂回していくが、結局行きたいところに辿り着くようでして。ま、下り道だし、辿り着くのであれば、多少回り道しちゃってもいいか、と、このまま走り続けることに。

 さて、それでも、ちょっと不安になったので、途中で側道を歩いていたおばちゃんに、道を尋ねてみた。一応イタリアに入ったので、覚えたてのイタリア語で・・・が、全然通じない様子。というか、普通にドイツ語で返してきた。おばちゃん、ここに住んでいる人なんでしょ?ここ、イタリア語じゃないんですか?と、なんとなく、そんな感じの質問をしてみたところ、この辺は、ドイツ語の方が通じる地域らしい。ふむむ、このあいまいな感じが、国境を撤廃してしまったEU圏の興味深いところ。それぞれ国として成立はしているのだが、国境付近の言葉や文化はビミョウに曖昧になっている。と思ったのだが、どうやら、この辺、かつてはオーストリア領だったりして、もともとドイツ的言語・文化圏だったようで、現在でも、イタリア国というより、チロル地方としてのまとまりのほうが強い場所らしい。

 そうそう、ここいらで、ちと、前から思うところがあった、ヨーロッパが国境撤廃したのに民族や文化が融合しない理由について、スペインの日記で一度書いたのだが、もう一度改めて書いてみることにしよう。

 ヨーロッパに、アメリカやロシアといった大国に対抗するために、1957年に共同体としての枠組みが作られ、現在、27か国間で、国境が撤廃され、同一通貨が使われる、欧州連合となった。国境があることによって、人の行き来が制限され、だからこそ、各国がそれぞれの国としての特徴を持つことになり、それがそこに住む人たちのアイデンティティとなると、考えていたオイラは、国境を撤廃してしまったヨーロッパは、個別であった各国の文化を交ぜ、より大きな一つの文化を形成していくものだと思っていた。

 が、ヨーロッパを実際に旅をしてみて分かったのは、国境を撤廃しても、それぞれの国は国として、それぞれの特徴を持って存在しつつけているという事実だった。スペインはスペインだったし、フランスはフランス、ドイツはドイツだった。国境がなくなったのに、流動していない。混ざり合ったりはしていないのだ。いや、流動はしている。なくなった国境を気軽に跨いで旅をしているヨーロピアンの姿は各地で見かけた。

 それでも文化や国の特徴が交じり合ったりしないのはナゼなんだろう・・・それは、ヨーロッパの人たちが根本に持っている<郷土愛>とでもいうパトリオット的な感覚に要因があるようだ。

 ヨーロッパの国々は、よくよく見てみると、国としても一つにまとまっているわけではない。それよりもっと小さな単位、地方、いや、町単位で独立しているのでは、と感じるほど、町単位で独自の特徴ある文化を形成している。そして、この町単位のつながりを何より第一に思う気持ちが強い。カルロスは、サラゴサの仲間のことを何よりも大切にしていたし、フィゲレスで出会ったエステヴァンは、スペイン人であることよりカタルーニャ人であることを誇りに思っていたし、ステファンとキャロリンは毎週末に友達と会ってバカ騒ぎするボルドーのバーがあるから一週間がんばれるんだと語っていた。

 つまり、ヨーロッパとは、基本として濃い小さな結びつきというものがあり(パトリオット的結びつき)、その単位では出来ないことをより大きな行政単位を作って、あくまで<補完>としてやるという構造になっているのだ。基本的に完全な地方分権。だから、いくら大きな枠組みを設けたとしても、その中で、混ざり合ったりすることはない。その中にある小さな単位は、それぞれ強烈な個性を維持したまま、存在し続けるからだ。

 我々、という単位を、日本という国の枠で捉えがちな日本国民は、どちらかというと、この逆の発想だ。まず、国が、という話になり、各地方行政は、国の方針に従うという構造が日本。

 この思考の違いは、お釣りの返し方に表れていて興味深い。日本ではお釣りを渡す時、まず、大きな札から渡していって、最後に、細かいコインを渡すのが普通だろう。が、ヨーロッパでは逆なのだ。まず、小さなコインから渡され、最後に大きな札が渡される。まず森を見るのか、まず木を見るのかの違い。これ、ヨーロッパ的思考を理解するのに、重要な比較文化的視点ではないかと思うのですよ。

 と、そんなことを考えながら、イタリアの側道を走っていたんですが・・・この側道、どんどんすばらしい風景の場所へと導いてくれるじゃないですか。イタリアのサイクリングロード、すばらしいぞ。ドイツでは、サイクリングロードに沿って走っていたら、変なところに連れて行かれたりしたんで、サイクリングロードを信用していなかったんだけど・・・こんな素敵な風景を見せてくれるのなら、イタリアのサイクリングロードは信用しちゃってもいいかもな。

 そんなサイクリングロード、あまりに素敵な周囲の風景に、立ち止まっては写真を撮影、ってのを繰り返していたら、目標としていた町まで全然辿り着けず。しょうがないので、今日は、道端で、野宿。サイクリングロードは、人があまり通らないから、大胆に、サイクリングロード脇でいいか、とも思ったのだが・・・一応用心のため、道脇の一歩隣に設置されている柵の陰になるところに入り込んでテントを設営。