Dziękuję, Robert
ありがとう、ロベルト。『もっと戻るべき場所』に連れてきてくれたことに感謝

2013.10.4 / Poland(~Opatowiec) 本日 自転車9km走行 : Total 48610km走行
天気:晴 自転車折りたたみ:1 ネット:1
朝飯→キャンプ飯 昼飯→チキン 夕飯→クッキー / 宿→Hotel(シングル85ズウォテ)

(English)
 We went down a river in a kayak.



 朝、寒さで目が覚めた。今日は特別に寒い。いつものように、火を起こすためテントを出たら・・・外は快晴。川下りを始めて、初めて見る雲ひとつない青空が広がっていた。ちなみに、朝の気温ってやつは、曇りの日より晴れの日の方が低いことが多い。放射冷却ってやつですわ。

 しかし、こんなに晴れた日は、寒いのは朝だけ。すぐに、ポカポカ陽気になってくるはず。澄み渡った青空が気持ちいいし、これだったら、まだまだカヤック旅を続けたくなっちゃうなぁ、なんて思ったのだが、残念ながら、今日が最終日。新たに設定したゴール地点までは、あと20kmほど。順調にいけば、今日の昼には到着するだろう。

 まぁ・・・晴れの中ゴールして、気持ちよく終わったほうが、カヤック旅が好印象のまま心に残るし、今回はあと20kmで終了ってことでいいか。それに、右手の親指が痛いし。そうそう、初めてのカヤック漕ぎだったので、握り方が悪かったのか、力の入れ方が悪かったのか、右手親指にマメが出来てしまいまして。そして、それがつぶれてしまい、今や、漕ぐたびに右手が痛むってな状態ではあったんですよ。

 火を起こして、朝飯準備。これが、おそらく、最後の野外飯だ。そんな最後の飯を食べながらいろんなことが思い出されてきた。ロベルトが教えてくれたカヤックの漕ぎ方、ロベルトのマシンガントーク、ロベルトの理解不可能なポーリッシュ・ジョーク・・・ん~、むむむ、ロベルトが喋りまくっていたことしか、思い出せないや(笑)

 飯を食べ終わった後、片づけをして、出発準備。テントをたたんで、荷物をまとめて、カヤックを着水させて、カヤックに荷物を詰め込み、乗り込んで・・・漕ぎ始める。

 青空の下での川下りは、格別だった。これまでの3日間とは比べ物にならないくらいの心地よさ。目に映るものが全てキラキラしてみえる。暖かくなってきたから、漕ぐのをやめて、周囲の風景を堪能する余裕もできたし。今までは、カラダを動かしていないとすぐに寒くなってきてしまっていたから、とにかくひたすら漕ぎまくってて。手を休めて周囲の風景にノンビリ浸るなんてことができなかったんですよ。

 といっても、カヤックは、漕ぎ続けていては、途中でバテる。ロベルトが言うには「30漕ぎしたら、30秒休む」のが、いい漕ぎペースらしい。

 さて、今までは、動くものは鳥くらいしか居なかったのだが、陽気に誘われてか、今日はビーバーが出現してきた。用心深い彼らは、草木の間をゴソゴソしたり、すぐに水の中に入っちゃうため、カメラで捉えることが出来なかったのだが・・・肉眼で一瞬見ることが出来た彼らの姿に、テンションあがりまくり。ちなみに、冬眠前のビーバーくんは、はちきれそうなほど、丸々と肥えていた。

 そんな感じで非常に心地よかったラスト・カヤック。昼前にはオイラのゴール地点となるポイントに到着してしまった。あ~、終わるとなると、名残惜しいなぁ。それにしても、ホント、ロベルトの誘いに乗ってよかった。ノルウェー旅がそろそろ終わりとなる頃、ロベルトから「ポーランドに入ってウチに来たら、カヤックでの川下りに連れて行くよ」とメールで誘われた時、「残りの北欧&東欧をゆっくり周るか、それとも、急いで周ってロベルトとの川下りに時間を費やすか」ってことで、ちょっと悩んだんですよ。ノルウェーでそれなりにワープをしてきたおかげで、フィンランドに入った時点でも、シェンゲンの残り期間的には、まだ余裕があった。なので、残りの北欧&東欧をそれなりにゆっくりしながら南下していくっていう選択肢もあったんです。が、そうはせず、ひたすらバスワープを使っての弾丸旅で南下したのは、ロベルトの誘ってくれた川下りの方が、なんか、面白そうだったから。

 そして、その選択は正しかった、と今確信もって言える。

 もちろん、弾丸旅であっという間に通り抜けてしまったフィンランドやバルト三国を、チャリ走りを交えてノンビリしていたら、それはそれで、出会いもあっただろうし、楽しい道のりになっただろうな、とは思う。でも、それは、今までのヨーロッパチャリ旅の延長でしかなかったとも思う。ヨーロッパチャリ旅は満腹になりつつある、オイラには、新たな刺激が必要だった。

 今回の川下りは、新たな刺激として十分すぎるものになった。

 ロベルト、とずっと一緒だったから。

 一人の旅ってのは、<自分の殻>から脱することはない。自由だけれども、自由だからこそ変わらない自分の領域でしか動かない、いや動けないのだ。変わるという事象は、束縛から発生する。<誰かと一緒に時を過ごす>という束縛が、相手と協調することを余儀なくさせる。自分に変化を強要する。その結果、<自分の殻>が破ける。新しい自分が顔を出す。新しいモノの見方ができるようになる。

 自分を変えたかったら、一人旅なんかしてちゃダメだ。誰かと一緒に旅するといい。そして、その誰かってやつは、自分がそうありたいと思っている面を持っている人、いや、どうせだったら、コレまでに出会ったことがないタイプの人がいい。

 自然の中を旅するということは、どういうことなのか、ということをロベルトに教えられた。一番分かりやすい例で言うと、日記に何度も書いてきた<焚き火>。実はロベルトは、ガスストーブも持っていた。しかし、川下り中、ガスストーブは一度も使うことはなかった。朝昼晩、毎回、木々を拾って焚き火をし、その火ですべてをまかなっていた。「ガスストーブは便利だけど、好きじゃない。だって、家と同じじゃないか。焚き火はそうじゃない。『戻ってきた』って感じがするんだ」と、ロベルトは言う。

 オイラは、これまで、自転車で走ることで、その『戻ってきた』っていう感覚を得ていた。全てがシステム化され、ベルトコンベアに乗せられているがごとく楽に生きていける日本で、正体不明の悶々とした焦燥感を感じながら生活を送っていたオイラは、海外に飛び出し、異国の地を自力で走ることで、『戻ってこれた』って感じることができ、焦燥感が消えた。

 『戻ってくる』ってのは感覚的なもので、具体的に、どこに戻ってきたのかって言えるようなものじゃないんだけど・・・人間の持つ動物としての本能が求める場所って言ったらいいのかな。人間が作り上げた文明ってやつは、人間の動物としての本能を使わなくてもすむようにしてきた。それが<便利>の正体だ。<便利>は人間の本能を眠らせる。ただし、本能は本能として消えることはないため、時々目覚めてしまう。なんでもある日本では、この目覚めも、<便利>が無理やりまた眠らせようとしてしまう。たぶん、この時に発生する<無理やり>が、正体不明の悶々とした焦燥感を生んでいたんだと思う。

 動物としての本能を存分に発揮しなければやっていけないチャリ旅は、目覚めた本能に「そのまま起きてていいんですよ」と許しを与えてくれた。本能が存分に暴れられる環境・・・これが、『戻ってきた場所』なのだ。

 旅に出たオイラは、今まで、<便利グッズに囲まれながら、ワイルドな状況に身を置く自分>で満足していた。それでも、オイラの本能が暴れるには、十分『戻ってきた』環境だと思っていたのだ。が、ロベルトと共に川下りをし、彼のペースに巻き込まれるようにして四日間過ごすことによって、もっともっと『戻ってくることができる』ということに気づかされた。<便利グッズすら使わないワイルドな状況>は、『もっともっと戻ってきた』と思わせてくれた。

 以前日記に書いたことがあったかもしれないが、脳科学者池谷裕二さんの著書の中に、「人間は、ワニの脳とネズミの脳とヒトの脳という、3つの脳を持っている」と記されていたのを、また思い出す。ワニの脳は残忍で攻撃的、ネズミの脳はずるがしこく狡猾。そして、このうえに、理性的なヒトの脳があるという説だ。人間は、残忍な脳と狡猾な脳を進化途中で残したまま、かろうじてヒトの脳をつくりコントロールしているという。

 脳科学的に考えると、人間とは、こうした<相容れない特性>を同時に持つ矛盾した存在なのだ。人間世界は今、ワニやネズミが顔を出すことを嫌う理性的なヒトの脳が優勢で、ワニの脳やネズミの脳を押さえ込めている、ように見えているのだが、ワニやネズミは消えることはない。これを無理に押さえ込んでいると、いつの日か、暴発するカタチで目覚める可能性がある。

 ちなみに、このワニやネズミをコントロールするために考えられたヒトの脳の英知の集大成が<宗教>らしい。宗教とは、ワニやネズミ脳を抑えるために生まれてきたものなのだ。そう考えると、ユダヤ教やイスラム教の戒律の厳しさのワケに納得できる。さらに、戒律を厳しくつきつめている原理主義者が、過激な行動に出るのも、なるほど、と思わされる。反動なのだ。そして、一方、キリスト教という宗教は、抑えられすぎたワニやネズミ脳を時々出現させるのを許す方向で、変化してきた宗教だと考えることもできる。

 消えない以上、ワニやネズミを時々出現させててあげながら、うまく付き合っていくのがバランスいい生き方なのではないのか?

 『戻ってきた』と感じさせてくれる場所とは、ワニやネズミが目覚めるのを、ヒトの脳が許す場所なのだ。理性だけでは立ち向かえない、攻撃的であらねばならなかったり、ずるく立ち回ることが余儀なくされる場所。

 時々は、こういう<場所>に『戻ってくる』といい。

 まぁ、オイラはもう、5年もこういう<場所>に『戻っている』のだが・・・

 そんな感じで、オイラを、より深い場所へと戻らせてくれた、今回のカヤック川下り。誘ってくれて、そして、5日間も一緒に遊んでくれたロベルトには、ホント、感謝感謝。ゴールの川辺に上がった後、ポーランド語で覚えた「ジェンクイエ(ありがとう)!」と連発して、握手しようとしたオイラを、ロベルトは「じゃぁ、最後にもう一度ポーランド式の挨拶を」と、またもや羽交い絞めしてサバ折。う・・・いや・・・これ、絶対ポーランド式挨拶なんかじゃないでしょ・・・ゴホッ・・・

 ま、とにかく、ホントに、ホントに・・・ジェンクイエ、ロベルト!

 カヤックを預けるボートハウスに向かうロベルトを見送って、オイラは、バスが走る国道へと歩いて向かう。ラッキーなことに、国道にあるバス停に到着した10分後に、荷物を預けたレストランのある町へ向かうバスが到着し、乗り込む。

 カヤックで2日半かけて漕いできた道程を、バスなら1時間で戻ってしまった。バスは<便利>だ。でも、バスに乗っているだけだと、ワニもネズミも目覚めない。

 さて、レストランに戻り、レストランのお兄さんに、預かってもらっていたオイラの荷物を出してもらう。ちょうどお腹も空いていたので、預かってもらっていたお礼ってことで、奮発して、豪華に飯をオーダー。ちなみに、ポーランドは物価が安いので、結構豪華な飯をたのんでも、そんなにビックリするような額にはならない。

 飯を食べた後、荷物を整理して、チャリ走りモードに。とりあえず、今日のうちに、次の目的地であるクラクフに行ってしまうつもりだったオイラは、またバスワープすべく、この町のバス停へ。で、バス停で、自転車に装着していた荷物を外し、自転車はたたんで輪行袋に入れ、いつものバス乗りスタイルで、バスを待つオイラ。

 30分くらいして、クラクフ行きのバスが来たので乗ろうとしたら「その荷物、兄ちゃんの?ダメダメ、そんな荷物は乗せられないよ」と、運転手が乗車拒否。「え~、下の荷物入れのところなら入るでしょ?」と申し出したのだが、ダメの一点張り。しょうがないので、次のバスを待ったところ、次のバスも、そんなに荷物を乗せられないとこれまた乗車拒否。バンタイプの小型バスなら、しょうがないと思うんだけど、大型バスで、明らかに下に荷物搭載スペースがあるのに、荷物を理由に乗車拒否されるなんて・・・

 5年旅していて初めてだ。いや、確かに、自転車をそのまま乗せようとして「ダメだ」って言われたことはあった。が、その時は、折りたたむことで、「それなら、OK」ってことになり、乗せてくれたのだ。折りたたみチャリの本領発揮、やっぱり、折りたたみチャリなら、公共交通機関とのハイブリッド旅行は、問題なくできるぜ、って思っていたのに・・・

 どうにもならないことってあるんですな。

 もう一台だけ待ってみたのだが、そのバスもダメだった。結局2時間くらいそのバス停で待っていたため、これからチャリで走りはじめても、次の町すら到着できるか分からない時刻になっている。ということで、しょうがない、クラクフに向かうのは明日にするか、と諦め、今晩は、この町に泊まることに。

 テント泊慣れしたオイラは、別に町外れにテントを張って寝ちゃってもよかったのだが・・・実は、レストランで、預けていた荷物を受け取った時、バックの中をあけてみたら、中身がまだまだ湿った状態のままでして。このまま放っておいたら、カビが生えたり、錆びちゃったりするから、どこかで完全に乾かしたいって思っていまして。

 宿に泊まれば、部屋で荷物を広げて乾かせるぞ、ということで、町に一軒だけあったホテルにチェックイン。宿泊費はだいぶ高かったのだが、ま、ポーランドはまだ全然宿泊費使ってないし、とか、濡れたものを乾かさなきゃいけないから、とかいろいろと理由をつけて自分を納得させて、お支払い。

 で、部屋に入って、早速、濡れたものを出して、トイレットペーパーで水分をふき取った後、自然乾燥させる作業を開始・・・と、最初は、いくつかだけやればいいとおもっていたのだが・・・結局、積んでいるモノ全て(パソコン以外)をやらねばならなかった。まだまだ、全てが湿っていた。ビニールに入れていたものは、一つ一つ取り出して、水分をふき取り、床に置く。ビニールは、一旦水洗いして、水分を切った後、シャワー室にかけて自然乾燥。

 あ~、カヤック中には、あの水没事件はすっかり笑い話にできるまでになっていたのに・・・改めて水没したモノと対峙してたら、また凹んできたよ。あの時は大丈夫だと思っていた食べ物も、半分くらい水が浸透して、食べられなくなっちゃってるし、香辛料もいくつか水に浸かってダメになっちゃってるし、金属モノのいくつかは、錆びみたいなのができつつあるし・・・なにより、川の水の妙なニオイが染み付いちゃっているのが、厄介だ・・・こういうの、しばらく取れないんだよなぁ。








































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